あのときのようにできない②

2.不確かなメロディー

 さて、「あのときのようにできない」のは何故か、という話に戻りましょう。これまで述べてきたことから考えると、コツをつかもうとして、あるいは隣の人に合わせようと試行錯誤している真っ只中である、という一つの分析ができると思います。これはすなわち、金子の形成五位相における〈探索位相〉と、まぐれでできたという段階である〈偶発位相〉を行ったり来たりして、一定の動感メロディーを統覚し、現前化できる〈形態化位相〉をめざしている段階であるということです。

 この段階では、まだ出会っていない身体知へ向けて試行錯誤しているわけですから、的外れなことをしたり、たまたま当たって上手くいったり、いろいろなことが起こるのです。そして、偶然にも今日一度できたからといって、明日も同じようにできる保証はどこにもありません。さらに、たとえ「こんな感じ」というコツをつかんだとしても、それを機械的にリピート再生することは、そもそも人間には不可能なのです。そのような段階において「あのときのようにできない」と思うとき、「あの上手くいったときと同じようにやろう」として、その動きかたの微妙な差異に気づかないまま「できない」と思ってしまっているのかもしれません。